未来の価値 第28話


アッシュフォード学園の生徒全員が、体育館に集められた。
皇帝の演説が始まるため、この学園だけではなく、他の学校も、会社も、この時間は皇帝の演説をテレビなどで拝聴することになっていた。予定の時刻となり、画面には威厳を纏った98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが姿を現しす。
弱肉強食を国是とするブリタニアの皇帝らしく、人々に競い、争えと煽るような演説の後、皇帝は数多くいるその子供の一人が、生きていた事を告げた。

第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア

皇帝が右手を上げると、漆黒の皇族服を纏った若き皇子が皇帝の前まで歩みを進め、階段のすぐ下でその膝を折った。漆黒の髪と白磁の肌。遠目からでも解るその特徴に、アッシュフォードの生徒たちはざわめいた。この学園で有名なその人物は、ある日を境に姿を消しており、その安否を多くの生徒が気にしていたため、その人物と目の前に映る皇子を重ねる事は容易だった。
そんな中ミレイは悲しげに俯き、リヴァルとシャーリーはとうとうこの日が来たと固唾を呑み、ナナリーは安全のためスザク・咲世子と共にクラブハウスから放送を見ていた。

『ルルーシュ、ここへ』
『はっ』

皇帝の許可を得、顔を上げ凛とした表情で立つのはやはり予想通りの人物で、ざわめきはますます大きくなった。画面の向こうにいるルルーシュは、迷う事のない足取りで階段を上り、示されるがままに皇帝の傍らに立つ。

『今より7年前、エリア11との戦争において行方不明となっていた我が息子ルルーシュを、これの母であったマリアンヌの後見をしておったアッシュフォードが保護し、今まで守り続けておった』

皇帝は、ルルーシュを弱者として虐げる発言をする事も無く、淡々と言葉を紡ぎ続け、ルルーシュの皇族復帰と、エリア11で総督の補佐となる事も続けて口にした。
そして、妹姫であるナナリーの死も正式に発表した。
ナナリーを知るアッシュフォードの生徒、教師たちはますますざわめいた。

『ルルーシュよ』
『はい、陛下』
『生存が確認されてより今日までのこの短期間で、多くの功績を残した褒美に、そなたには皇位継承権第5位の地位を与える』

ざわり、と、謁見の間がざわめいた。
ルルーシュも想定外の内容に、驚き目を見張ったが、すぐに表情を改め、返礼する。
だが、内心は余計な事をと、苦々しい思いで毒づいていた。
継承権を失う前は17位と高くはない地位にいたが、突然5位となったのだ。
帝位を狙える位置。
ルルーシュの命を狙う者が増える事は想像に容易い。
そこまでして、殺したいのか俺を。
ギアスさえ使う事が出来れば。
二人きりで会う事が出来れば。
その思いもありここまで来たが、今いる場所は視線を交える事も出来ない皇帝の横。まるでルルーシュのギアスを知り、視線を合わせる事を避けたようにも感じられた。
今までの順位でいうなら、オデュッセウス、ギネビア、シュナイゼル、コーネリア、クロヴィスで5位。そのクロヴィスの前にルルーシュを入れたのだ。 今はクロヴィスに保護される形のルルーシュを、クロヴィスの前へ。 これは、クロヴィスへの、いや、ラ家への宣戦布告ともとれる行動だった。
皇位継承権争いの火種そのものだ。
クロヴィスよりも遥かに下だからこそ、ルルーシュを保護しても問題はなかったが、前に出したことでクロヴィス派の面々はルルーシュを敵とみなすだろう。
唯一ともいえる味方を、敵に変えるための5位。
これが6位ならどうにでもなったものを。
悪意しか感じられない移動。
今までは庶民の母を持つルルーシュとナナリーを除き年功序列で付けられていた順位が、ルルーシュと言う異質な存在のために入れ替わった。なぜルルーシュが上がったのか、その理由を皆が調べるだろう。 弱肉強食を謳う以上、短期間で上げた成果が順位を押し上げた事は当然だと騒ぐに違いない。
確かに目を見張るほどの功績を残し、我ながらよくやったと褒めてやりたい気分だったが、まさか裏目に出るとは。
最悪だ、全て計算し直さなければ。
ああ、ギアスを使い皇帝を傀儡にできれば全てが終わるというのに。
その唯一のチャンスを、こうして自らの傍らに置くという手であっさり封じてくれるとは、あり得ないほどの幸運と勘の良さ。 強硬策を取り各国を植民地にしているというのに、今まで暗殺されなかっただけある。
ああ、くそ忌まわしい。
腸が煮えくり返るような怒りと動揺を表に出すことなくルルーシュは粛々と謁見を進めて行った。



謁見が終わり、映像が消えたアッシュフォード学園の体育館では、ざわめきがますます大きくなっていた。
ルルーシュが皇子だった事。
皇位継承権5位という地位を得たこと。
何より妹ナナリーの死。
では、いつも一緒だったあのナナリーは誰なのだろう?
そんなざわめきの中、ひときわ大きな声が辺りに響いた。

「シャーラーップ!みんな静かにして!」

声の方へ視線を向けると、マイクを手にステージの上に立つミレイの姿があった。

「ルルーシュ様の事でみんなが驚いている事は解っているわ。その事に関して、理事長からお話しがあります」

いつものお祭り娘の雰囲気は欠片もないミレイの言葉に、全員の視線がステージに集まる。
カツリカツリと靴音が聞こえるほど静まり返ったその場所に、この学園の理事長、ルーベン・アッシュフォードが姿を現した。

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